BLUE BLUE BLUE
啓輔くん、行こう。
そう言って姉は僕の手を引いた。姉の指の先にまで巻かれた布の感触と、美しい声。それだけあれば、姉だと判断するには十分だった。
ふたりで石段を降りる。姉の手に引かれると、僕の体は羽のように軽くなった。天使になったかのように、ふわりと体が浮く。潮騒。
海沿いの町の隅で、ひっそりと僕たち二人だけで暮らしていた。いつでも潮の音が聞こえた。空も、海も、すべてが青いのだと姉は言う。ここは、青の町なのだと。
ブルー・ブルー・ブルー。
石段の陰からささやくように、何かを探し求めるような、懇願するような声が聞こえてくる。それを聞くたびに、姉の手の力がきゅっと強くなるのを感じた。
姉といつも一緒だった。どんなときも、離れることはなかった。まるで二人一緒じゃないと心臓が動かないかのように、しっかりとお互いの手を握りしめて。
姉は僕にとっての太陽だった。月だった。空で、海で、風だった。僕は息をするように姉を求めた。姉はいつでも優しく僕を愛した。永遠にこのまま生きていくのだと思っていた。
潮騒が遠のいていった。青い町を離れて、遠く遠くへと跳んでいく。
姉の長い髪が、僕の頬に触れた。
啓輔くん、ばいばい。
姉の、布でざらついた手が、ふいに離れた。あれほど力強く握っていたのに、握られていたのに、おどろくほどにするりと、簡単に。
僕は赤ん坊のようにうろうろと周囲を手探りしたけれど、そこには塵しかなかった。姉さん、と呼んだ僕の声は広々と反響して、そしてひどく静かになった。
裕子さん
車椅子の女
ホウイチ
くるくる
青の町