もうおしまいだーと彼は机に突っ伏して大泣きし始めた。どうやら彼女と別れたらしい。あたしが見た彼女は綺麗で、優しげで、あたしもこんな綺麗な人になれたらいいなと思った。まあ昔っから体育会系だった彼には不釣合いなくらいに華奢だったけれども。



「女に見る目がなかった訳なのだから仕方がねえって」

彼と、あたしを挟んで座るこの人は、既にほろ酔いのままグラスの底の赤い液体を眺めた。


「だけんども、おれぁ好きだったんだよ」
「・・・・・・本当に、何故この人に好かれて嫌がる女がいるのかわからねえな」


グラスをテーブルに置き、彼は凛々しい目でテーブルに突っ伏してしくしく泣く男を睨みつけた。グラスの中の赤い液体はなくなっていた。


「飲みすぎですよ」
「うるへいな。俺はまだしらふだっつうの」



呂律の回らないまま何を言っているのか。あたしは未成年なので目の前にはオレンジジュースが出されている。それをストローで少し飲んだ。



多分ね、多分だけれど。もしかしたらのことで、憶測の域を出ないけれど。

彼と別れたあの綺麗な人は、もしかしたら、あなたのことが好きになったのかもしれない。
けれども何をしたって無駄です。この人は色恋沙汰には全く興味なしです。いつまでも、この筋肉隆々のくせに心は繊細な乙女のような彼と悪友として生きていたいそうです。あたしたちの入る隙間なんてどこにも見当たりませんよ。




あたしは振り返る。


「ねえ、しらふさん」
「んお?」

彼は眉間にきつく皺を寄せた。







「このまんま、ずっと変わらずにいてくださいね」







彼は少し不思議そうな顔をして、それから、少しにこりと笑った。あたしも負けじと笑い返す。あたしにはオレンジジュース。彼には赤い液体。この差がいいのだ。あたしには決して届かない、


ある意味、神様のような存在










オレンジジュース
カクテル