結局のところ泣いてしまった。泣くわけないだろと言っていたのに泣いた。


というのも全て彼女が見に行こうと言った映画のせいであって、その映画はまた何ともいえず古くて今の人が見たら確実に十人中八人ほどがイヤーな気分になる、という、とんでもない代物なのだが、彼女が見に行きたいと言ったので僕もつられて見に行ったのである。

そうなのである。僕が泣いてしまったのは映画のせいなのである。





「あんなに泣くとは思っていなかったけれど」

彼女はぶらぶらと歩く。彼女のスカートがひらひらと揺れる。


「確かに私の好きな作家の原作で、随分昔に上映されて、大ヒットして、一時期は波を起こしたらしいものだよ。でも私はそこまで泣けなかったけれどもなあ」

「うむ、そうだね」


鼻をかみながら彼女の隣を歩く。ふと、隣の彼女の顔を見て、またぼろ泣きした。


「どうしたの、私の顔がどうかしたの」

「ううん、君の顔はとても綺麗で、さっきの映画の主役の女優みたいだよ、だから思い出したんだ」


彼女はびっくりして目をしばたかせた。


「似てるの? 私とあのひと?」


「非常に似通っているよ。ああ、なんだか喋る気力も全部涙に溶けてしまったよ。ここからは黙ったまま歩こうか」




彼女は黙った。僕も黙る。静かで心地よい静寂に、僕の鼻水の音。ずびずび。
彼女はあの映画の主演女優となんかちっとも似ていない。あの映画すら、途中から僕の単純な頭にはあらすじが分からなかったし、最後の方は分かろうともできなかった。ではなぜ僕が泣いているのか? それはというと、





「そんなに好きだったなら、原作でも貸してあげればよかった」

「もう、いいよ。君のものだろ」



そうだね、と彼女は笑った。空の雲はひとつもなかった。僕と彼女は手を繋いで、ぎゅっと握って、それから、ばいばい。少しだけ手を振る君に。無駄に大きく手を振る僕。彼女の乗ったトラックはゆっくりと離れていく。僕の前から。





彼女はあの映画の主演女優となんかちっとも似ていない。あの映画すら、途中から僕の単純な頭にはあらすじが分からなかったし、最後の方は分かろうともできなかった。ではなぜ僕が泣いているのか? それはというと、彼女と別れてしまうことが僕にとっては悲しかった、それだけだ。





原作借りてればよかったと思った。だって、持っていれば、君はいつか返しにもらいに来るだろう?

けれども確か、僕が最後に見た映画のラストは、こうだ。主人公たちがお互い地球の裏側に行って、それからドミノみたいに様々な出来事を経由して、また巡り会う話。



だから平気だ。










グレンディ、ポピーライト