先日、連れ添ってプラネタリウムを見た。



「つまならいね」と彼が言い、

「つまらないね」と私が返した。




その日のディナーを高級レストランの、夜景が大きくきらきら輝くのがよく見える席で食べながら、彼はふと思い出したように「ねえ、あれはきっと、プラネタリウムのなりそこないだったんだね」と言った。

「プラネタリウムに、あれはなれなかったんだね」

彼の言っていることはわからなかったが、彼が幸せそうな目をしているので、それもまたいいかな、と思った。





しばらくして、彼から「本物の夜空を見に行こう」と言われた。
別に見たくも何ともなかったけど、私は「そうだね」と言った。

その次の週の真夜中に彼の車は随分と高い丘、いや、もはや崖の上へ走った。
そこから見える夜景は小さすぎて迫力がなくて、「夜景のなりそこないだね」と言った。
彼は「そうだね」と返した。


空は綺麗だった。けれどもこの間のプラネタリウムのなりそこないよりも、星は多くは見えなかった。

「ああ」

彼が漏らしたため息を、そっと風に流させて、けれど義理として「どうしたの」と聞く。

彼は、顔を見なかったので分からなかったけれど、ふふ、とのどの奥で低くうなって、
「これも、プラネタリウムのなりそこないだ」
と言った。

私は「そうだね」と返した。


「なりそこないばかりだ」


そう彼が言ったとたん、背中に羽のようにやわらかくやさしく、彼の手が触れ、体が宙に浮いた。崖の上から嬉しそうに目を細める彼の顔が見えて、一瞬ののち、どんどん小さくなっていった。

それからは、目の前いっぱいに、限りない数の星たちが瞬いているのが見えた。


ああ、これは、なりそこないなどではないな。



そう思った。







プラネ(タ)リウム