きらきらひかる

なんで生きているの? と聞かれ、困った。そういう問いは考えてみたことがない。なんででしょうねえ、と真剣に考えたわたしを見てその子は不思議な顔をした。こわいものでも見るかのような。おまえ、きもちわるい。そう言い残して、その子は部屋から出ていった。そのことを彼に話した。
「わたし、なんで生きているんでしょう」
「なんでって」
彼は焦点の合っていない目でわたしを見た。いつだって、そう。彼の目は夢みがちで、けっしてわたしに像を結ばない。なんで、生きているのかは、かいもく見当つかないが。 生きている限りは、この人の顔を見ていたい、と思う。わたしの背後にそびえているであろう虚像を彼は見つめる。じっと。まんじりともせず。時計の音。ちくたく。
「そりゃあ、おれが生きていてほしいからだろ」
疑問をはさむ余地もなく、断定形で。彼はそう言った。わたしは、ぱちくりと目をしばたかせる。わたしの目は、彼に照準を合わせる。いな、合わせてしまう。彼にしかピントが合わないのだ。さっきのあの子にも、どんなにんげん、有象無象にも。
「じゃあ、わたしはあなたのために生きているのですか」
「うん。おまえのいのちはおれのもの」
おっけい?
彼が首をかしげて聞いてくる。わたしは大きくはっきりと、虚像しか見えない彼にもわかるように、うなずいた。夢みがちな瞳は今日もどこかをぼんやりと追いかける。そんなあなたをわたしは追いかける。走る。走る。そのうち消しゴムみたいにすり切れて、なくなってしまうだろう。うっとり。わたしは、あなたのために生きている。いつ、消しかすになって消えてしまうかはわからないが。生きている限りは、この人の顔を見ていたい、と思う。
2012/02/27
「足首が細くなるからやってごらん」と薦められ、一週間爪先立ちで生活してい たのだが、学校に行くためにローファーに足を突っ込んだ瞬間、すさまじい痛み が私の足首を襲った。巻き尺で測ってみると、一週間前より5センチも膨らんで いる。それでも無理やり押し込んだところ、王子と結婚しようとして踵を切り落 としたシンデレラの姉よろしく足首が削れた。意識が飛びそうなほど痛かったが 、入った。私は勝ち誇った笑みを浮かべ、後ろに血の道を残し、悠々と学校へ闊 歩した。
2010/05/08
左足に切ない痛みを感じるなと思ったら、切らねばならなくなった。なんでも、 細胞が壊死していく治療法の見つかっていない奇病らしく、ああなるほどあの切 ない、胸がこんこんとわきあがる悲しみで塗りつぶされるような痛みは滅びゆく 左足の嘆きだと気づいた。
2010/05/08
彼女からは、もどかしい匂いがした。 それは生鮮食品売り場の匂いで、古ぼけたスーパーマーケットの匂いだった。そ ういう、どこか、もどかしいような香りがわたしの鼻をついた。わたしは顔を上 げた。彼女は先ほどと一ミリも変わらない姿勢でそこにいた。
2010/05/08